サッカーファンなら知っておきたい、スペインとラ・リーガの基礎知識

コラム

スペインサッカーについて

国内リーグの名称からも、サッカー界に与える影響の大きさを物語るスペイン。スペインサッカーの知識を知らずして、サッカーファンは語れない。ぜひ、この機会に知識を深めておこう。

スペインのプロサッカーリーグ、ラ・リーガは、
・プリメーラ(1部リーグ)
・セグンダ(2部リーグ)
・セグンダB(3部リーグ)
となっている。4部以降はアマチュアリーグである。

愛称はリーガ・エスパニョーラ。
リーガという単語は、英語にするとリーグなので、他にも使われている国は幾つもある。ドイツのブンデスリーガ、ポルトガルのプリメイラ・リーガ、アルゼンチンのスーペルリーガ、といった具合だ。

その点、日本のJリーグは名称として、とても優れている。J1、J2、J3とわずか2文字で、どこの国の何部のリーグなのか、容易に判別できる。このスマートな名称は褒めてよい。なぜなら、もし、スペインの真似をして、どこかの国がリーグ名称を「The League」と英語で設定したら、残念ながら、どこの国のリーグか判断できないだろう。

逆に言えば、スペインのすごさが際立つ。本来、リーグの意味しかない「ラ・リーガ」という単語でも、世界中のサッカーファンで通用している。伊達に世界最高峰のリーグではない。

スペインサッカーの歴史

まず、注目して欲しいのは、チームのエンブレムだ。

スペインの最も有名なクラブチームと言えば、レアルマドリードとバルセロナである。スペインどころか、世界の2大トップチームと言っても過言ではないだろう。
レアルマドリードのエンブレムには、王冠がついていて、バルセロナのエンブレムには王冠が無い。

この王冠の有無は、スペインサッカーを語る上で、押さえておきたいポイントの1つだ。

歴史的にスペインは、国内で民族紛争を抱えてきた。ドンパチしていた時代もあったが、今は、そのような形ではなく、地域ごとに、我々はこの地域の民族だ!というアイデンティティを掲げている。思想的な話になるので、個人差は大きい。強く訴える人もいるし、逆にあまり気にしない人もいる。
サッカーに関していえば、これらの感情が表面に出やすい。

実はスペインでは、クラブチームのエンブレムに、王冠のついているチームというのは、幾つも存在する。乱暴な解説をしてしまえば、エンブレムに王冠がついていたら、政府側。ついてなければ、クーデター側だ。乱暴だが、対立構造を把握する手段としては、わかりやすい区分けとも言える。同じ地域、または、同じ都市の中に、王冠のエンブレムのついたチームと、ついてないチームがあるのだ。
そして、大半は、地域内の激しいダービーマッチとなる。

そして、地域の枠を越えて、スペイン国内を二分する頂上決戦が、レアルマドリードvsバルセロナになる。

日本で例えるなら、幕末の京都をイメージして欲しい。新選組と攘夷志士は激しく衝突していた。その争いの最中、突然刀での決着は禁止された。刀ではなく、今後はサッカーで決着を付ける!とルール変更されたのだ。

新選組の最強メンバー11人vs攘夷志士の最強メンバー11人。

この戦いが、スタジアムで観戦できるのである。熱狂しないわけがない。

昔であれば、代理戦争の様相すらあったが、平和な時代が続いて、民族紛争などの意識は薄れてきた。今や過去の対立要素は、試合を楽しむスパイスである。

このスパイスは、隠し味として強烈にスペインに浸透している。スペイン国内のあちこちで、観客は激しく勝利を求めている。プロパガンダ(政治的な宣伝)をするのに、地味な勝利では盛り上がらない。ただ勝つのではなく、美しく華麗なサッカーで圧倒する。

スペインサッカーの根底に流れる、歴史的な政治闘争は、図らずも、スペインサッカーの地位を大きく引き上げている。まるで、プロパガンダ(政治的な宣伝)に登場する、英雄たちが繰り広げる蠱惑的なサッカー。それを地でいくのが、スペインである。

ダービーマッチ

スペインリーグを観戦するときに、おすすめのダービーマッチを3つあげておく。

クラシコ(レアルマドリードvsバルセロナ)
マドリードダービー(レアルマドリードvsアトレティコマドリード)
セビリアダービー(レアルベティスvsセビージャFC)

他にもダービーマッチは幾つもあるが、どの試合も熱い展開になることが多い。

スペインのサッカースタイル

スペインのサッカーといえば、華麗なポゼッションサッカーである。長短織り交ぜたワンタッチのパス交換で、相手守備陣を切り崩して、勝利する。

これはもはや、国民性と言ってよい。しかし、これは、どちらかというと、強者のサッカーである。ポゼッション、つまりパス回しで、相手を圧倒するには、正確で高い技術が求められる。

自陣内で回していて、ショートカウンターを喰らう。または、攻めていて、相手陣内に侵入していても、パスカットされて、速攻のカウンターを浴びる。このようなケースは非常に多い。

あたり前の話だが、パスを回している間に、相手の守備陣形が整ってしまうからである。裏を返せば、多少、相手の守備が整っていても、正面から粉砕できるのであれば、特に問題ない。

真正面から、切り崩せるだけの実力があれば、見ている者を魅了する、華麗で美しいサッカーが完成する。

スペイン国内で、これを体現するクラブチームが2チーム存在する。レアルマドリードとバルセロナである。

牽引する2大ビッククラブ

スペイン国内の圧倒的強者は、レアルマドリードとバルセロナだ。もちろん時代によっては、チームの世代交代でまごつく時期もあったりするのだが、それを差し引いても、レアルマドリードとバルセロナは突出している。歴史的な因縁もあって、この2チームは、強烈なライバル関係になっている。レアルマドリードは首都マドリードを本拠としている。一方のバルセロナは、カタルーニャ州の州都バルセロナを本拠としている。カタルーニャ地域は、スペイン人ではなく、カタルーニャ人である、という誇りをもっている。例えばワインである。スペインワインと呼ぶのではなく、カタルーニャワインと呼ぶ。カタルーニャ地域では、過去に何度も独立運動の機運が高まっている。

バスク人の誇り

スペインでは、カタルーニャ地域以外でも、独立運動の火種は存在する。中でも、バスク地域は強烈だ。バスク人の誇りは、チーム編成にすら影響が及んでいる。ビルバオというチームは、バスク人のみで構成されたチームである。バスク人でなければ所属できない。EU枠内であれば自由に移籍できるヨーロッパにおいて、人口比から考えると、大きな制限のあるチームだが、プリメーラ(1部リーグ)から降格したことのない強豪チームである。またバスクダービーの対戦相手である、レアルソシエダも、伝統的にバスク人を重用している。バスクダービーは、バスク人にとって、ある意味、お祭りなのである。この地域の人口を考えると、バスク人を主体として戦い続けた歴史そのものが、民族の誇りと言える。

国内リーグはポゼッションを重んじる

レアルマドリードとバルセロナ、そして、この2チームに準じる上位チームも、ポゼッションサッカーであることが多い。リーガエスパニョーラでは、他国リーグと比較すると、ポゼッションに優れている、となるのだが、個々の対決で見るとそうでもない。チームの格が違いすぎると、ポゼッションで対抗するのは不利になるので、守備を重視して、攻撃はカウンターを主体とする。

国内リーグでは、明確なヒエラルキーが存在するのである。

スペイン代表チームのサッカースタイル

スペイン代表チームは、レアルマドリードとバルセロナから選ばれた選手が軸となる。リーグで戦っているスタイルと同じく、ポゼッション中心のサッカーが色濃く反映される。むしろ、所属クラブと違い、外国籍の選手が存在しないぶん、よりポゼッションに傾倒したスタイルになりやすい。

ただし、スペイン代表のボールを扱う技術はとても高い。大抵の場合、常にボールをキープする側である。世界各国の代表チームと比較しても、ポゼッションに関してはピカイチだ。世代によっては、世界一のボール回しを披露する、国家代表チームと言える。

まとめ

スペインは、代表チームも国内リーグも、ポゼッションを信奉している。ワンタッチのショートパスを連続させるには、何よりも高い判断力が要求される。真のポゼッションスタイルとは、チーム全体で、瞬時に複数のパスコースを作り出し、隙間のない場所でも、隙間を作り出す技術である。

簡単に真似できるような戦術ではない。

華麗なパスワークで見る者を魅了する、それがスペインサッカーの神髄である。