縦ポンサッカーの揶揄は間違い、イングランド、プレミアリーグの真実

big-ben03 コラム

イングランドサッカーとは?

イングランドサッカーの代名詞といえば、キック&ラッシュである。プレミアリーグやイングランド代表チームを語る上で、このキーワードを外すわけにはいかない。やもすれば、縦ポンサッカーと揶揄される、キック&ラッシュの戦術だが、それはいささか早計だ。ただの縦ポンサッカーにはない創造性にあふれている。今回は、キック&ラッシュをキーワードにして、イングランドサッカーの魅力について語る。

キック&ラッシュとは?

サッカーの戦術としては、ロングボールで、ボールをゴール前に放り込む作戦である。メリットは2つ。ボールを奪ってから、ゴール前までの到達時間が短いこと。ロングボールで相手を飛び越えるので、途中でパスカットもされない。

この戦術を機能させる上で、キーポイントとなるのは、FWになる。放り込まれた、五分五分のボールをゴールに叩きこめるか否か、全てはこれに尽きる。

伝統の戦術

現代サッカーでは、FWには様々な技術が必要となる。なので、少しだけ時代を戻してみよう。キック精度も低く、DFとの駆け引きも拙い時代、キック&ラッシュのFWに必要なのは、肉弾戦の強さになる。五分五分のボールで競り負けているいるようでは、話にならない。

キック&ラッシュを多用する戦術の場合、各ポジションに必要な能力というのは、己ずと決まってくる。
FWは、競り合いの強さ。そして、ロングボールがズレる場合も考えると、足の速さも欲しい。
DFに求められるのも、競り合いの強さになる。
要は、攻めるにしろ、守るにしろ、ロングボールに対する競り合いの強さが、求められる。

イングランドでは笛を吹かない

イングランドサッカーは、キック&ラッシュの伝統で発展してきた。プレミアリーグが他国リーグに較べて、荒いと表現されるのは、しごく当たり前の話になる。ゴール前の肉弾戦がメインになっている状態で、審判がピッピ、ピッピと笛を吹いていたら、観客は楽しめるだろうか?

自然と、競り合いに対する笛は緩くなる。荒いというよりも、肉弾戦を楽しむ土壌があると言ってよい。現代のプレミアリーグでも、この傾向は踏襲されている。

勝つために、キック&ラッシュを磨いてきた

キック&ラッシュのチーム同士で、どうやって勝ちを拾っていくか。イングランドサッカーを考察する上で、外すことのできないテーマである。双方とも、キック&ラッシュの戦術を採用している中で、チームを勝たせていかなければならない。

まず勝率を上げるには、どうすれば良いか、である。

今まで、五分五分のボールと言っていたが、後方から大きく蹴り出したボールは、正確には五分五分ではない。実はDF側が有利になる。競り合いのシーンを思い浮かべてほしい。FWは、後方から来るボールを受けて、180度反対側のゴールにボールを蹴り込む必要がある。もし、ノートラップでシュートするには、高い技術が必要だ。そして、トラップするのであれば、DFに寄せる時間を与えてしまう。一方、DFは、どの状況でも前から来るボールを弾くだけである。これでは、いつまで経っても点は入らない。

「DFの裏側の、オープンスペースにボールを入れればいいじゃん!」

となるが、この状況は発生しない。現代でこそ、ラインを高く保つ意味はあるが、純粋なキック&ラッシュでは、そもそも、ディフェンスラインを上げる必要は無い。中盤をすっ飛ばして、FWが点を取れば勝てるシステムである。キック&ラッシュに長けたチーム同士の争いなのだ。DFの裏側のオープンスペースを空けるなんて、弱点を広げるようなもので、どのチームも採用するわけがない。

有効な戦術はクロスボール

そこで採用されるのが、後方ではなく、角度をつけてボールを放り込む戦術になる。クロスボールである。

真後ろからのボールよりも、横からのボールの方が、FWが点を取りやすい。ボールをノートラップで、シュートするときでも、横からのボールであれば無理がない。

欠点としては、一度、サイドに振ると時間のロスが発生する。だが、トータルでは、サイドに一度ボールを預けた方が、得点が生まれやすい。

サイドでの1対1は、勝つ前提

勝つために、徐々にウイングというポジションが重用されていくことになる。
クロスの量と質が、そのまま点に結びつくからである。

守る側としては、さすがにドフリーで、クロスを上げさせるわけにはいかない。かといって、ゴール前の中央の人数を減らすのは下策だ。ゴール前さえ堅守すれば、失点しないからだ。妥協点として、サイドバック1枚で対応となる。

クロスを上げるために、ウイングはサイドバックに勝つ技術が求められる。正確には、多少、質が悪かろうが、クロスをゴール前に放り込める人材が必要になる。キック&ラッシュでは、ここの1対1で負けてたら、点がまったく入らない。

キック&ラッシュの世界において、極論すれば、守備時はサイドを捨ててもよい。守る側は中央に人数を固めて、弾き返せば守り通せる。ボールを奪ったら中盤をすっ飛ばして、サイドに展開、そこからクロスをゴール前に放り込むのが骨子だ。

まとめ

イングランド代表、および、プレミアリーグは、以下の特徴をもつ。

ロングボールを多用した、めまぐるしい攻守の切り替え。
サイドでの1対1の攻防。ゴール前での激しい肉弾戦。

近年は外国人監督も増えて、多彩な戦術を見せている、とても魅力的なリーグだ。だが、下地となる特徴は、長い年月で築かれた伝統でもある。その随所にキック&ラッシュの面影を忍ばせている。