ドイツサッカーの強さの秘密、ベルリンの壁崩壊も乗り越えた優等生

Germany-Football コラム

ドイツサッカーの歴史

ドイツのブンデスリーガの歴史を語る上で、外せないのは、旧西ドイツと旧東ドイツの統一です。第二次世界大戦の影響もあって、東西に分裂していたドイツは、1990年に統一を果たしました。その影響はサッカー界にもおよび、ドイツのサッカーピラミッドを構成する参加チーム数は、一気に増大します。

旧西ドイツのチームと旧東ドイツのチームでは、経済格差がありました。旧西ドイツ側が優勢です。サッカークラブは、基本的にお金のあるチームが強くなります。多少、例外はあるにせよ、年俸の高い有力選手を集められるのですから、チーム強化の面で有利です。

旧西ドイツのチームに、多くの有力選手が移籍しました。どこの国のリーグでも、1部リーグと2部リーグでは、収入面で大きな隔たりがあります。放映権や賞金など、リーグのディビジョンごとに分配される金額が大きく異なるからです。

そして、一度確立されたヒエラルキーは、なかなか覆りません。

ドイツの場合、1部リーグに旧東ドイツのチームが存在しない年度もありますし、2部リーグでも、圧倒的に優勢なのは、旧西ドイツのチームです。旧東ドイツのチームは、3部でも残っていれば良い、の状態です。それでも存続しているのならば、ファンとしては幸せです。少なくとも、応援するチームが消滅していないのですから。

ブンデスリーガの特徴

ドイツは、国として質実剛健というイメージがありますが、サッカーにも当てはまります。ブンデスリーガの特徴は、健全運営です。リーグとして、クラブ運営をする上で、財政の健全性を重視しています。

逆に財政に不安のあるリーグは、イタリアとスペインです。正確には、大きな負債を抱えているクラブばかり、という国は幾つもあるのですが、リーグ順位の高い、トップリーグと目されている国としては、この2つです。

一方のドイツですが、財政の健全性に関しては、お手本のような国です。日本のJリーグも、創設するにあたって、ブンデスリーガを参考にしています。

観客動員数は世界一

ドイツのブンデスリーガは、観客動員数で世界一です。チケット料金が他国と比べて低価格というのもありますが、最大の要因は、国家としての経済力です。現在のヨーロッパでは、若者の失業率の高さで問題になっている国というのは、幾つもあります。サッカーを産業として分類するなら、娯楽のカテゴリーですから、国家として、経済が安定しているのは、かなり強味と言えるでしょう。

2部や3部も、観客動員数が多い

ドイツ固有の現象として、2部や3部に、旧東ドイツのクラブチームが存在しています。おらが町のクラブ、というのは愛着のあるもので、地元クラブを応援するサポーターの数は非常に多いです。2部ぐらいならまだしも、3部以下のチームとなると、どこの国でも観客動員数はかなり減ってくるのが普通です。ドイツの場合は、旧東ドイツのクラブという、歴史的な背景もあって、下位リーグであっても、観客動員数の面では、有利に働いています。

財政の健全化に貢献

どこの国のリーグであっても、ディビジョンが下がるほど、クラブ運営の収入は減ります。財政を健全化するには、一定数以上の観客動員は不可欠です。その点ドイツでは、旧東ドイツのクラブの存在があるので、他国リーグと比較して、観客動員数の平均は増えます。旧東ドイツのクラブは、下位リーグ全体の財政の健全化に大きな役割を担っているとも言えます。

ドイツサッカーの特徴

スペインからドイツへ渡った監督が、ブンデスリーガはカウンターサッカー、といった趣旨の発言をしています。確かに縦に早い攻撃をすることは多いのですが、スペインのようなポゼッション中心のサッカーをする国から見れば、一定水準以上で、縦に早い攻撃を繰り出せる国は、全てカウンターサッカーの国になってしまいます。

ドイツサッカーの特徴を上げるなら、欠点の少ない優等生のサッカーです。

選手の平均身長が高い

伝統的なサッカー強国、例えば、ワールドカップを取ったことのある国々の中で、代表選手の平均身長が最も高いのはドイツです。もちろん、歴代の招集メンバーによって、多少前後するのですが、それでも、他国と比較して、大柄の選手が多いのが顕著です。

サッカーというスポーツでは、必ずしも身長は必須ではないのですが、それでも、大柄な選手の方が有利という場面はあります。まず、空中戦では、身長の高い方が確実に有利です。そして、コンタクトスポーツですから、地上での身体のぶつかる競り合いでも有利です。

平均身長よりも、選抜メンバーの質

例として、日本代表の選考です。極端な話、Jリーグに所属する、各ポジションの高身長の選手を、上から順に11人集めたチームでは、現役の日本代表チームに勝てません。あくまでも、身長や体格は、あれば良い程度に過ぎません。

今度は逆に、身長の高さが優位に働くケースを紹介します。

現役の日本代表チームの選手全員が、10cm身長が伸びたとします。170cm台の選手が180cm台に、180cm台の選手は190cm台になるので、競り合いで有利になります。さらに元々180cm台後半の選手は、なんと2m近い選手になっています。空中戦はかなり期待できます。仮定の話ですから、選手の技術レベルは変わらず、ただ身長が伸びただけです。

さて、10cm身長の伸びた代表チームと、元のままの代表チームで、試合をしたらどうなるか、です。仮定の話になりますが、けっこう良い勝負になります。サッカーでは身長が低くて、小回りの利く方が、有利な場面もあります。(10cmも身長差が大きくなると、物理的な視線のズレも出てきます。)

ただ、どちらのチームが勝つかですが、勝率は10cm身長の伸びた代表チームに軍配が上がります。同条件であれば、身長の高さは、競り合いや空中戦の強さにつながります。

ドイツ代表は身長が偶然高かった。しかしそれは必然だった。

仮定の話を続けましたが、整理します。

ドイツ代表の話です。とある年に、ワールドカップに臨む国家代表として、23人の代表選手を選抜したら、偶然、平均身長で世界のトップに属していました。次のワールドカップも、その次のワールドカップも、狙ったわけではないのに、選抜メンバーの平均身長は、常に世界のトップに属していました。正確には偶然ではありません、必然です。ドイツ人の平均身長は、他国に比べて高いのですから。いつの時代でも、平均身長が高い、それがドイツ代表の特徴です。

ドイツ代表は優等生のチーム

ドイツ代表チームは、欠点の少ない優等生のサッカーをします。各国の代表チームと比較して、平均身長が高いからこそ、その優等生ぶりは際立ちます。

ドイツ代表チームは、足元の技術が確かな選手が多いです。ブンデスリーグのレベルは高く、世界の主要なトップリーグの1つです。

もちろん、足元の技術だけでいけば、ブラジルやスペインなど、より強いチームはあるでしょうが、少なくとも戦えないレベルではありません。北欧のチームのように、平均身長の高いチームは幾つもありますが、ドイツ代表の水準で、地上戦のみを戦えるチームはほぼ皆無です。

もし、ドイツがアジア大陸に鞍替えして、アジアカップに参加した場合、身長を生かしたパワープレイなどを用いなくても、普通に優勝を狙えるレベルです。

それだけ、足元の技術が高いにもかかわず、代表チームの平均身長で世界のトップに属します。
ドイツ代表チームに、弱点が少ないのは当然かも知れません。

ドイツ代表は国民性を反映して、とても勤勉で、常にピッチの上を駆け回ります。そして、ゲルマン魂と称えられるほどの精神性を発揮します。彼等は、団結力があるばかりか、劣勢でも諦めない、勝利へのあくなき精神を持っています。
言葉だけを並べて見ても、欠点らしい欠点が見当たりません。

まとめ

ドイツサッカーをレーダーチャートで表示したら、どの項目も水準以上で広く表示される、欠点の少ない優等生です。代表チームも、ブンデスリーガも、もっと言ってしまえば、リーグの経営面まで含めて、全ての面で、欠点の少ない優等生です。

改めて感じるのは、ドイツサッカーの優等生っぷりの、すごさです。平均身長はともかくとして、健全経営に関しては、見習うべきリーグは沢山あります。

幸い日本のJリーグは、財政健全性では優等生です。フットボールを愛する者としては、ドイツの周辺国の財政が気になります。財政危機のクラブチームが、ちらほら見え隠れしていますから。

ドイツサッカーについて語っていたら、いつの間にか、周辺国の財政が気になっていたというオチになります。それだけ、ドイツサッカーは優等生という、お話でした。