ファンタジスタの生まれた国、イタリアとセリエAの基礎知識

Italy-Football コラム

イタリアサッカーについて

イタリアのトップディビジョン、セリエAは、多くのサッカーファンにとって、ノスタルジックを感じさせるリーグです。もちろん、個別のチームをサポートしているファンにとっては、昔も今も変わらず、最も熱いリーグでしょう。今回のコラムでは、イタリアのサッカーに焦点を当てて、解説していきます。

かつての世界最高峰リーグ

イタリアのリーグは、1990年代から2000年代初頭にかけて、紛れもなく、世界最高峰のリーグでした。上位クラブには、世界各国のスター選手がずらりと並び、往年のファンであれば、メンバー表だけでも、ご飯を食べられるほどです。

イタリアを代表する、ビッククラブといえば、ユベントス、ACミラン、インテルミラノの3クラブですが、今は過去形になってしまうかも知れません。

カルチョ・スキャンダルと経済問題

他国リーグの台頭もありますが、どちらかといえば、イタリア国内の問題で影を落としています。要因は2つ。国内の経済状況の悪化と、2006年のカルチョ・スキャンダルです。

カルチョ・スキャンダルは、一言でいえば、試合の勝敗に関わる不正操作です。買収や八百長、それ以上の政治的な要因など、疑惑の全てが証明されたわけではありません。ですが、リーグの地位を落としたのは確かです。

一方、国内の経済状況の悪化は、いまだに尾を引いています。元々、イタリアでは、国内の資産家がクラブチームを保有することが多かったのですが、不況の影響もあって、不採算の保有クラブを維持できくなるケースが出て来ました。かつての名門・古豪のチームが巨額の負債にあえぎ、中には破産やクラブ消滅の危機となっています。ただ、イタリアに限らず、サッカークラブというのは、資産家のオーナーがパトロンとなって、維持することも多く、再建中に次の資産家へバトンタッチすれば、特に問題はありません。多少の負債に目をつむっても、クラブの伝統的な格や、長年応援するファンという、目に見えない資産が残っているからです。

スタジアム問題

イタリアのサッカーリーグでは、スタジアム問題というのもあります。

スタジアムを自治体が所有していますが、地域によっては、クラブでスタジアムを所有させてもらえません。

これはどういうことか、というと、スタジアムの入場料収入を、どちらが確保するか、という問題です。クラブが自前でスタジアムを所持したら、自治体の収入が減ってしまいます。地域によっては、自治体の許可が降りません。

まるで自治体が諸悪の根源、みたいな印象になるのですが、そもそも、許可以前の問題として、クラブ側も、巨額の資金を投入してスタジアムを建設する余裕は無いです。どこもかしこも、負債だらけです。今のイタリアの若者の失業率を見るに、かつての栄光への道は、大きな改革が必要です。

イタリアのサッカースタイル

サッカーを取り巻く環境としては、なかなか厳しい状況が続いているイタリアですが、以前の覇権を取り戻す、という意味では、盛り返してきている部分もあります。今まで培ってきた、サッカーの質の高さは健在しているからです。イタリアサッカーの代名詞としては、カテナチオがあげられます。

カテナチオとは、ゴール前に錠をかけるという意味ですが、転じて、堅い守備を差します。そして、イタリアで、美しい勝利の仕方として、ウノゼロという言葉もあります。1-0で勝つという言葉です。

「カタナチオ」「ウノゼロ」という、2つをキーワードから、イタリアサッカーの本質が見えてきます。
イタリアの伝統は、堅守からの速攻になります。

イタリアの伝統カテナチオ

注目したいのは、堅守というキーワード。

サッカーでは、勝ってる試合でも、負けている試合でも、評価や話題の中心は攻撃面に集中することが多いです。その点、世界の強豪国の中で、イタリアのように、堅守というキーワードが、最初に挙げられるのは、とても珍しいです。もちろん、イタリアでも試合の話題は、攻撃面の割合が高いのですが、守備を評価する文化が多いに根づいています。

ファンタジスタの閃き

堅守のチーム同士の対戦で発展してきたイタリアは、守備戦術の質と幅で、他国をリードしています。そして、堅い守りをどうやって、突破するのか、という駆け引きに、苦慮してきました。堅守速攻をベースにしたチームというのは、守備陣の人数が多くて、攻撃の人数は少なくなりがちです。少ない人数でも、攻撃を成立させるには、選手個人の閃きに頼りました。普通に攻撃したのでは、崩せないのですから、天性の才能が必要になってきます。

幸い、イタリアのリーグは世界最高峰のリーグとして謳歌していたので、各国のエース級の才能が、綺羅星のごとく集まっていました。堅い守りをこじ開ける、スーパースターの想像性や閃き。それは非常に美しいものです。その時代を知るファンは、どうしても、ノスタルジックになります。

イタリアにファンタジスタという言葉があります。

想像性のある華麗なプレイヤーにしか与えられない、サッカー選手に贈られる言葉としては、最高の賛辞ともいえます。

まとめ

イタリアのセリエAでは、かつて世界最高峰のリーグだった名残を随所に見せています。戦術の奥深さは、老獪で、いわゆる玄人好みです。堅守という戦術で戦うからこそ、カテナチオ、ウノゼロという言葉に賞賛が集まり、その対比として、ファンタジスタが生まれます。

観戦するときには、ぜひ注目してください。計算された緻密な守備戦術で、ホイッスル終了まで完封するのか、それとも、ファンタジスタの閃きが、堅守を打ち破ってしまうのか。堅守のチーム同士だからこそ、1点の重みが増します。『1点の重み』それこそが、イタリアサッカーの神髄です。