フランスのサッカーについて
サッカーは、まるでワインです。歴史を積み重ねて、各国に独特の個性をもたらします。ボール1つの単純なスポーツなのに、これほど、伝統や地域の特色、国民性などを反映するスポーツも珍しいです。それだけ、このスポーツに熱狂する人々が多いという証左でもあります。
今回のコラムは、ズバリ!
フランスは、シャンパンサッカーではなく、ボルドー産赤ワインのように、力強い味わいサッカースタイルである。
これをテーマに解説していきます。
リーグアンについて
フランス代表を形容する言葉としては、シャンパン・サッカーがあげられます。シャンパンの泡が弾けるように、華麗にパスをつないでいく、というスタイル。美食の国らしい表現です。では、実際に、華麗なパスワークをうりにしているか、と問われると違います。もちろん、パスワーク自体は水準以上で美しいですが、基本的には、個人能力で崩すスタイルのサッカーです。これには理由があります。母体となるフランスのトップディビジョン・リーグアン自体は、1対1の個人技を重視しているリーグだからです。
リーグアンの歴史
リーグアンは、長らく登竜門と位置づけられるリーグでした。今もまだ登竜門的なリーグですが、巨大資本を背景にした、パリサンジェルマンというビッククラブが誕生したことで、少しづつ変わっています。
歴史的に、リーグアンの上に位置づけられているは、4つのリーグ。スペイン、イングランド、ドイツ、イタリアです。4大リーグといえば、これらです。さらに1つ増やして、5大リーグといえば、フランスを加える形になります。フランスより下には、様々な国のリーグが存在するのですが、登竜門としては、フランスのリーグアンが最もレベルが高いです。フランスの場合、登竜門と言いつつ上位リーグとの差異は、あまり無いです。競技レベル的には、世界のトップリーグとの差は少ないのですが、登竜門のリーグである以上、活躍した選手を引き抜かれる側です。
リーグアンの歴史を振り返れば、チームに大活躍の選手が登場すれば、他国のクラブに引き抜かれてしまうので、フロント側のマネジメント力を問われるリーグでもあります。有力チームが2部に落ちたり、逆に2部から復活したチームが、メキメキと頭角を現すこともあります。そういった意味では、群雄割拠のリーグです。
群雄割拠から1強へ
いまだに群雄割拠の様相は残っているのですが、パリサンジェルマンというクラブが、現状に一石を投じます。オーナーが代わり、潤沢なオイルマネーを背景にして、他国から選手を引き抜く側へと転身しています。
フランスの首都パリという立地に加えて、世界有数の資本。パリサンジェルマンのスターティングメンバーは、スター選手揃いです。もし、地方のクラブに遠征にきたら、思わず、見に行きたくなるほどです。そればかりか、海外の人達も、試合をちょっと見てみたいな、と思わせます。実際、観客動員数や、海外の放映権などに好影響を与えています。
優勝チームを予想するとき、どこが勝つかわからないリーグ、から、パリサンジェルマンvs他クラブの構図になってしまいましたが、それでも、リーグ運営をする上で、好影響をもたらしてることは確かです。
フランスサッカーの特徴
フランスサッカー、リーグアンの特徴といえば、デュエルです。直訳すれば、決闘ですが、サッカーの世界では、1対1のボールの奪い合い、または、球際の激しさ、という意味合いで使われます。
ボールを1人で前に運べるのか、ボールを1人で奪えるのか。そのような、1対1の対決が重視されるリーグとも言えます。己ずとフィジカルに優れた選手、または、個人技に優れた選手が増えます。そして、リーグ全体の傾向として、大きな立ち位置を占めているのは、アフリカ出身の選手です。
アフリカ出身選手の台頭
アフリカ出身の選手は、社会的な背景もあります。欧州とアフリカ諸国で結ばれた、コトヌー協定と呼ばれる、いわば支援的な意味合いのつよい経済協力の協定があります。コトヌー協定自体は、カリブ海諸国や、太平洋の島国なども含まれているのですが、こと、サッカーに関していえば、主にアフリカ諸国が対象となります。
実は、コトヌー協定の参加国は、EU枠外ではなく、EU枠内として扱われます。
この辺りは各国の裁量もあって、多少異なるのですが、フランスでは許可されていて、外国籍になりません。そして、歴史的にフランスは、多くの植民地をアフリカ大陸に持っていました。公用語として、フランス語を採用している国も多く、それらの国の選手にとって、フランスは言葉の通じる国でもあります。
こうして、アフリカ出身の有力選手がフランスへと渡ってきます。多くの選手は、しなやかなバネと、スピードを兼ね備えていて、場合によっては、強靭なフィジカルも加わります。仲間とのコミュニケーションに不自由せず、しかも、リーグでは個人能力が重視されるとあって、即戦力として、ピタリとはまるピースになりました。もちろん、しばらく試合に出続ければ、戦術的にも適応します。
アフリカ出身の有力選手を抱えることで、デュエルの質は高くなり、ひいてはリーグ全体のレベルを向上させます。フランスで個人技が通用すれば、どこのリーグでも通用する可能性が高いです。登竜門としては、ピカイチのリーグです。ただし、パリサンジェルマンがビッククラブ化した以上、今後、登竜門としての位置づけは変わるかも知れません。不安要素があるとしたら、若者の失業率問題が、少しづつ忍び寄っている点です。まだ、スペインやイタリアほどでは無いですが、気がかりではあります。
フランス代表のつよみ
フランス代表は、選手選抜に関して、大きな強味を持っています。国内リーグのレベルが高く、その上、登竜門的な位置づけの為、有力選手は海外の上位クラブへと進出し易い環境になっています。海外のビッククラブに所属するグループに加えて、国内で活躍するグループも、他国よりもレベルの高い環境でプレーするため、自然と選手層が厚くなります。
まとめ
フランスサッカーの歴史と伝統、そこから導きだされる結論があります。フランスサッカーの個性は、華麗なパスワークで崩すシャンパンサッカーではありません。力強いデュエルで勝利を収める、いわば、芯のどっしりとした重厚感のあるスタイルです。形容するのであれば、ボルドー産赤ワインというべきでしょう。
シャンパンサッカーといいつつ、中身は実は、ボルドー産赤ワイン。これがフランスサッカーの真実です。それも、極めて高品質なボルドー産赤ワインです。サッカーファンであれば、過去のワールドカップメンバーを思い出してみてください。あらゆるポジションに、デュエルに強い、1対1の個人能力に長けた選手がいたハズです。フランスのサッカースタイルについて、知れば知るほど、シャンパンサッカーと形容することは無くなります。ワインに例えるならば、軽やかではなく、力強いボディの重厚感こそが特徴です。