ブラジルサッカーの強さの秘訣、知られざる選手層の厚さについて

Brazil-Football コラム

まずは大喜利

司会:「私は『そうそう』と返しますので、ブラジル代表のセレソンについて、ボケてください。」

座布団1:「ステーキの付け合わせです。」
司会:「そうそう。」
座布団1:「クレソン。」
パチパチパチ~。

座布団2:「史上最攻です。」
司会:「そうそう。」
座布団2:「セレッソ大阪。」
パチパチパチ~。

座布団3:「東京から北海道へ移籍しました。」
司会:「そうそう。」
座布団3:「東京マラソン。」
パチパチパチ~。

ブラジルサッカーについて

サッカー王国ブラジルは、サッカー界の歴史を語る上で、決して外すことのできないトピックといえる。ブラジル代表は、ワールドカップ最多優勝国である。愛称はセレソン。ポルトガル語で代表や選抜を意味する。日本のJリーグに来たブラジル人選手が、まれに、自分のチームに所属する日本代表選手に対して、「彼はセレソンだから。」のような発言をするときもあるが、あくまで原語の意味で使用している。注意したいのは、ブラジル代表選手とは、若干、意味合いが異なる点である。母国のブラジル代表を表現するときのセレソンは、選ばれし者という意味合いが、多分に含まれている。

現在のサッカー界の中心地はヨーロッパである。日本のJリーグは、位置的には辺境と言ってよい。そのJリーグにも、ブラジル人選手は沢山在籍している。日本の2部リーグであるJ2でもチームの得点源は、ブラジル人選手というのは、よくある光景である。これはJリーグに限った話ではなく、世界中のリーグで散見される。

ブラジル代表は、圧倒的な選手層から選ばれたエリートなのだ。他の強豪国の追随を許さないほどの、選ばれし者たちの集団、それこそが、ブラジル代表のセレソンである。

今回のコラムでは、ブラジルサッカーの強さの秘密について、選手層に焦点を当てながら解説していく。

ブラジルの国内リーグについて

ブラジルのプロサッカークラブは、約800。日本のJリーグでは、J1で18チーム、J2で22チーム、J3は拡大傾向にあるが、その全てを合わせても、ブラジルの800という数字は想像できない。そして、ブラジルでは、プロサッカークラブの下に数万のサッカークラブが、巨大ピラミッドとして存在している。その上、ブラジルでは、サッカーファミリーも充実している。フットサル、ビーチサッカー、フットバレー、ソサエチー(7人制サッカー)。

率直な印象として、他国とは規模が違う。

才能を持った選手が泉のように湧いてくるという、ブラジルだが、勝手に湧き出しているのではなく、受け皿の広さと、才能を吸い上げるシステムが整備されている。

州リーグによる試合数の増加

拾いあげた才能を磨くのに、実戦ほど相応しい場所はない。ブラジルの国内リーグは試合数が多い。その主な要因は、州リーグの存在だ。

ヨーロッパで例えるなら、
・ホーム&アウェイの国内レギュラーリーグ
・ホーム&アウェイの国内カップ戦
・大陸リーグ(チャンピオンズリーグ)

の3つで運営されている。
しかし、ブラジルは、ここにもう1つ、大きな大会が加わる。州リーグである。

州リーグだけで、国内レギュラーリーグ並のボリュームがあったりする。例えば、年間32試合の州リーグに参加となると、もはやこれだけで、他国のレギュラーリーグ並である。州リーグに関しては、過密日程になるので、廃止の話も持ち上がるのだが、クラブチームの中には、州リーグ参加がメインのチームもあるので、廃止は難しい。

一応、ブラジルでは4部まで全国リーグがあるのだが、全国のクラブ数は4部程度の規模では収まりきらない。また、ブラジルは国土が広いので、弱小クラブにとっては、地域の近い州リーグの方が観客動員を計算できる。州リーグの方が、ダービーマッチが頻発するのだから、当然ともいえる。

他にも、州のカップ戦だったり、州をまたいだ大会だったり、さすがに、膨大な数のプロクラブを支えていくだけはある。各クラブは、前年度の成績や、在籍する州によって、参加できる大会が変るので、スケジュールを把握するだけでもかなり煩雑だ。スーパーカップのような、何々大会のチャンピオンと、別の大会のチャンピオンが戦う特別試合もある。

まるでブラジル国内だけで、毎年、世界大会を開いているようなものだ。

才能の原石を磨くのに、これほどの環境は無い。

選手の輸出

プロクラブの数が多いブラジル。上位チームならともかく、下層になると正確にチーム数すら把握はできないほどだが(冗談ではなくて、現地でも正確に把握できていない)、ピラミッドが巨大なだけに、同じプロといっても、収入格差は大きい。真面目な話、名声も稼ぎもよければ、国内に留まるのだが、現代サッカーの最先端はヨーロッパである。ブラジルもまた、有力選手の大半はヨーロッパへと渡る。ブラジルが、他国よりも優れているのは、ヨーロッパ以外の国への進出率である。世界各国のありとあらゆるリーグに、助っ人として、ブラジル人選手は存在する。もちろん、余裕で世界ナンバーワンの選手輸出国である。

ジンガ

ブラジルサッカーを語る上で、ジンガ、という単語は外せない。ジンガとは、「ゆれる、ふらふら歩く」といった意味を持つ。ブラジル人選手特有のリズム感を表現する言葉として、狭義では、ドリブルのボディフェイントやステップとして用いられる。この単語に関しての、ブラジルの市民権は、それを上回る。

ブラジルでは、ジンガとは、サッカーの才能そのものを指し示す。「ジンガを磨かなければならない。」と言ったら、サッカーの才能を磨かなければならない、という意味になる。

ジンガという言葉に込められた響きで、ブラジルにはサッカー文化が日常に深く根付いていると判断できる。日本では例えられないからだ。日本の選手で、誰かが独特のリズム感で、ドリブル突破をしたとする。その様子を見て、ドリブル突破に名称を付けて、さらにその名称が、サッカーの才能を示す単語にまで昇華するだろうか。

例えるなら、極地に住む人々になる。極寒の地に住むエスキモーにとって、雪は身近な存在なので、雪を表現する言葉が増える。砂漠に住む民族にとって、砂は身近な存在なので、砂を表現する言葉は増える。

では、日常生活でサッカーの身近な人々はどうだろう。サッカーに関連する単語が、生活の中に入り込んでくる。ブラジルでは、サッカーの才能を表す言葉として、ジンガという単語が定着している。ストリートに、サッカーの上手い子供が居たとする。そのとき、「あの子にはテクニックがある」ではなく、「あの子には、ジンガがある。」で会話が成立してしまうほど、ブラジルでは、サッカーは日常生活に溶け込んでいる。

まとめ・ブラジル代表について

黄色のユニフォームの色から、カナリア軍団とも形容されるブラジル代表。現在の代表選手の大半は、ヨーロッパに進出していて、現地のサッカースタイルに適応している。が、ひとたび集まれば、ヨーロッパとは大きく異なるサッカースタイルを見せる。

ブラジル代表サッカーの特徴は、即興性のあるハーモニーで、幻想的だ。どのポジションの選手も、相手を1人剥がせる、独特のリズム感をもっている。その様子は、サンバやジンガ(ゆれる、ふらふら歩く)に例えられるが、幼い頃からブラジルで育ったものには、自然と身につくスタイルでもある。正確には、自然に身につくというよりも、激しい競争の中で、磨かれたジンガ(才能)を持つ者だけが、プロ選手として生き残れる環境である。

そして、ブラジル代表の最大の特徴は、分厚い選手層があげられる。世界各国に進出しているブラジル人選手は、各国リーグのベストイレブンに選ばれるだけでも、かなりの人数に及ぶ。人材が豊富すぎて、ブラジル代表選手は、落選したメンバーだけでチームを組んでも、他国を遥かに上回ると言われるほどだ。

ブラジル代表の強さの秘密、それは、人材を輩出する土壌にある。
国内では、州リーグという特殊な環境で、膨大なプロクラブを支えていて、しかも、長年の蓄積により、選手が他国へと進出するルートが確立されている。ブラジルは、国内・国外に関わらず、とにかくプロ選手の人数が多いのである。どのような業界でも、プロとアマチュアでは差が出る。そして、巨大なピラミッドを構成するほど、頂点の質は高くなる。

ブラジル代表に関していえば、狭間の世代ですら、ワールドカップの優勝候補である。選手が揃っているときは、このメンバーで、負けてしまったのか、と驚かれるレベルにある。それもあたり前の話で、世界で一番、プロの選手層のぶ厚い国なのだから、ある意味、強くて当たり前とも言える。

まとめ・日本はブラジルを参考にできるのか

日本がブラジルを見習うとしたら、選手層を厚くすることに尽きる。

しかし、それが一番難しい。まず、日本でプロクラブの数を800まで増やすのは不可能に近く、200まで増やすのも大変である。J1とJ2を合わせても計40チームである。200という数値の遠さも理解できるだろう。もちろん、ブラジルほどのサッカー文化が根付けば、経済規模的には行けるハズだが、実際は絵に描いた餅である。さすがにブラジル並に、国内の選手層のかさ上げするのは、無理がある。

希望があるとしたら、海外進出になる。近年、日本は海外に進出をする選手数も増えて来た。とはいえ、まだ150人前後(これでもアジアでは一番多い)に過ぎない。ブラジルは優に10倍以上となる。ブラジルが、いかにバケモノ的な存在なのか、理解できる。正直、規模が違い過ぎて、参考にならない部分も多い。プロ選手の輸出数に関しては、500人に到達すれば、世界でもトップクラスである。日本としては、まず、ここを目指したい。

簡単に目指したいと述べたが、今のままでは不可能に近い。最低限、J3の拡充は必須になる。プロ選手の受け皿の容積が増えなければ、そもそもスカウトの目には止まらない。

日本のサッカーファンの皆さんは、ぜひ、J3クラブの拡充を応援してもらいたい。